IFLA-UNESCO公共図書館宣言2022 2022年7月18日採択 社会と個人の自由,繁栄および発展は,人間にとっての基本的な価値である。このことは,十分に情報を得ている市民が,その民主的権利を行使し,社会において積極的な役割を果たす能力によって,はじめて達成される。建設的に参加して民主主義を発展させることは,十分な教育が受けられ,知識,思想,文化および情報に自由かつ無制限に接し得ることにかかっている。 地域において知識を得る窓口である公共図書館は,個人および社会集団の生涯学習,独自の意思決定および文化的発展のための基本的条件を提供する。それは,商業的,技術的,あるいは法的な障壁に妨げられることなく,科学や地域に関する知識をはじめとする,あらゆる種類の知識へのアクセスを提供し,知識の生産を可能にし,かつ共有することによって,健全な知識社会を支える。 図書館は,どの国においても,とりわけ開発途上国において,教育を受ける権利,および知識社会や地域の文化生活へ参加する権利をできるだけ多くの人々が享受しうるよう支援する。 この宣言は,公共図書館が教育,文化,社会的包摂,情報の活力であり,持続可能な開発のための,そしてすべての個人の心のなかに平和と精神的な幸福を達成するための必須の機関である,というユネスコの信念を表明するものである。 したがって,ユネスコは国および地方の政府が公共図書館の発展を支援し,かつ積極的に関与することを奨励する。 公共図書館 公共図書館は,その利用者があらゆる種類の知識や情報をたやすく入手できるようにする,地域の情報センターである。それは知識社会の不可欠な構成要素であって,ユニバーサル・アクセスを実現し,すべての人に情報の意味のある利用を可能にするという責任を果たすため,情報伝達の新しい手法を継続的に取り入れる。また,知識の生産と情報や文化の共有・交換に必要な,そして市民の関与を推進するための,公共スペースを提供する。 図書館は地域社会を育むもので,積極的に新しい利用者にも手を差し伸べ,実効ある聞き取りによって,地域の要求を満たし生活の質の向上に貢献するサービス企画を支援する。人々の図書館への信頼に応え,地域社会への積極的な情報の提供と啓発が公共図書館の目指すところである。 公共図書館のサービスは,年齢,民族性,ジェンダー,宗教,国籍,言語,あるいは社会的身分やその他のいかなる特性を問わず,すべての人が平等に利用できるという原則に基づいて提供される。理由は何であれ,通常のサービスや資料の利用ができない人々,たとえば言語上の少数グループ(マイノリティ),障害者,デジタル技能やコンピュータ技能が不足している人,識字能力の低い人,あるいは入院患者や受刑者に対しては,特別なサービスと資料が提供されなければならない。 いかなる年齢層の人々もその要求に応じた資料を見つけ出せなければならない。コレクション(蔵書)とサービスには,伝統的な資料とともに,あらゆる種類の適切なメディアと現代技術が含まれていなければならない。質の高い,地域の要求や状況に対応した,そして地域社会における言語的・文化的多様性を反映したものであることが基本的要件である。資料には,人間の努力と想像の記憶とともに,現今の傾向や社会の進展が反映されていなければならない。 コレクション(蔵書)およびサービスは,いかなる種類の思想的,政治的,あるいは宗教的な検閲にも,また商業的な圧力にも屈してはならない。 公共図書館の使命 情報,識字,教育,包摂性,市民参加,および文化に関連した以下の基本的使命を公共図書館サービスの核にしなければならない。これらの基本的使命を通じて,公共図書館は持続可能な開発目標(SDGs)と,より公平で人道的な持続できる社会の建設に貢献する。 ・検閲のない,幅広い情報や意見へのアクセスを提供し,あらゆる段階の正規と非正規の教育を支援するとともに,継続的,自発的,自律的な知識の探求を可能にする生涯学習を人生の全段階で支援する。 ・個人の創造的な発展のための機会を提供する。そして想像力,創造性,好奇心と共感性を覚醒させる。 ・生まれてから大人になるまで,子供たちの読書習慣を育成し,それを強化する。 ・情報に基づいた民主的な社会を整備していくという観点で,読み書き能力を向上させる識字の活動やプログラムに着手し,援助し,関与して,あらゆる年齢層のすべての人々のメディア・情報リテラシーとデジタルリテラシーの技能の発達を促す。 ・デジタル技術を通じて,情報,コレクション,およびプログラムの利用を対面でも遠隔でも可能にして,いつでも可能な限り地域社会にサービスを提供する。 ・社会的しくみの根幹に関わる図書館の役割を認識し,すべての人々にあらゆる種類の地域情報の入手と地域をまとめる機会を確保する。 ・利用者の生活に影響を与える可能性のある研究成果や健康情報など,科学的知識の利用を地域社会に提供し,科学的進歩に関与できるようにする。 ・地域の企業,協会,利益団体に対して適切な情報サービスを提供する。 ・地域と先住民に関するデータ,知識,遺産 (口頭伝承を含む)を保存し,利用できるようにする。人々の要望に沿って,確保し,保存し,共用する資料を特定する際に地域社会が積極的な役割を果せる環境を整備する。 ・異文化間の交流を助長し,多様な文化が存立できるようにする。 ・伝統的なメディアであっても,デジタル化資料あるいはボーンデジタル資料であっても,文化的表現・遺産の保存および有意義な利用,芸術性の評価,科学的知識や研究と新機軸へのオープン・アクセスを促進する。 財政,法令,ネットワーク 公共図書館の建物への入場およびサービスは原則として無料とし,地方および国の行政機関が責任を持つものとする。それは国際的な協約や合意に基づいた,特定の,最新の法令によって維持され,国および地方自治体により経費が調達されなければならない。公共図書館は,文化,情報提供,識字および教育のためのいかなる長期政策においても,主要な構成要素でなければならない。 デジタル時代において,著作権と知的財産権に関する法令は,物理的資源の場合と同様に,公共図書館に合理的な条件でデジタルコンテンツを調達しアクセスできるようにする法的能力を有していることを保証しなければならない。 図書館の全国的な調整および協力を確実にするため,合意された基準に基づく全国的な図書館ネットワークが,法令および政策によって規定され,かつ推進されなければならない。 公共図書館ネットワークは,学校図書館や大学図書館だけでなく,国立図書館,広域の図書館,研究図書館および専門図書館とも関連して計画されなければならない。 運営と管理 地域社会の要求に対応して,目標,優先順位およびサービス内容を定めた明確な方針が策定されなければならない。地域についての知識と住民参加の重要性は,このプロセスにとって有用であり,意思決定には,地域社会の関与がなければならない。 公共図書館は効果的に組織され,専門的な基準によって運営されなければならない。 地域社会のすべての人々が,サービスを実際にもまたデジタル方式でも利用できなければならない。それには適切な場所につくられ,設備の整った図書館の建物,読書および勉学のための良好な施設とともに,相応な技術の駆使と利用者に都合のよい十分な開館時間の設定が必要である。同様に図書館に来られない利用者に対するアウトリーチ・サービスも必要である。 図書館サービスは,農村や都会地といった異なる地域社会の要求に対応させなければならない。また,当該地域の,社会的に排除された集団,特別な支援を必要とする利用者,多言語の利用者,および先住民の要求にも対応する必要がある。 図書館員は,デジタルと伝統的なもの双方で,利用者と資源との積極的な仲介者である。十分な人的資源と情報資源は,図書館員の専門教育と継続教育と同様,現在と将来の課題に対応し,適切なサービスを確実に行うためには欠くことができない。資源が量的・質的に十分かどうかについて,指導層が図書館専門職と協議しなくてはならない。 利用者がすべての資源から利益を得ることができるように,アウトリーチおよび利用者教育のプログラムが実施されなければならない。 継続的な調査研究は,政策立案者に図書館の社会的な利益を明示するために,図書館のインパクト(影響)や収集したデータの評価を重視しなくてはならない。図書館がもたらす社会の利益はしばしば次の世代に及ぶので,統計データについては長期的に収集しなくてはならない。 連携 連携を結ぶことは,図書館がより広範なより多様な人々と接するために不可欠である。関連する協力者,たとえば,利用者グループ,学校,非政府組織,図書館協会,企業,そしてその他の専門職との地域,地方,全国,国際な段階での協力が確保されなければならない。 宣言の履行 国および地方自治体の政策決定者,ならびに全世界の図書館界が,この宣言に表明された諸原則を履行することを,ここに強く要請する。 (長倉美恵子・永田治樹・日本図書館協会国際交流事業委員会 訳) 原文 IFLA-UNESCO Public Library Manifesto 2022. https://repository.ifla.org/bitstream/123456789/2006/1/IFLA-UNESCO%20Public%20Library%20Manifesto%202022.pdf